生まれなかった都市

観測日記とメニュー

20220227 星亨

起きて床屋に行く。最近男一人で切り盛りしてるので大変そうだ。生れてはじめてツーブロックにした。飯食って帰る。

松沢裕作『自由民権運動』面白かった。建白書から国会期成同盟愛国公党から自由党は何となくわかるものの、そこから秩父事件につながるのがよく分からなかったが、この本で何となく見通しがついた。

雑にまとめると、そもそも「国会をつくる」という目的自体は政府にも在野の活動家たちにも共有された目標だった。問題は、それをいつ、だれが作るかであって、在野の民権運動家たちにとっては、自分たちが国会設立のイニシアチブをとる=権力者になることが最優先であった。しかし、全国の結社をまとめ、ひとつの「私立国会」をつくる試みは、運動方針や内部対立によってグダグダしているうちに、結局政府側が先に国会をつくってしまうことで、先手を取られてしまった形になり雲散霧消する。

そうすると、国会開設運動は政党開設運動に横滑りするほかなくなるが、それは政府側の作ったゲームに乗ることになる。政府の建てた国会の議席をめぐって争うことは、結局は政府側に傾いた土俵で戦うことに他ならない。都市知識人系=立憲改進党はそっちの路線に入ることに躊躇しなかったが、本気の「私立国会」をつくりたかった自由党系の運動家はなかなかその方針に踏み切れない。

となると、お金も武力もないから全面戦争=クーデターもできない自由党が取れる路線は、お金が欲しくて地方の有力者に声をかけたり、武力含めた支持が欲しくて田舎のゴロツキ=ヤクザ、博徒、日雇い労働者に声をかけたりする。

ただ、これら下層民たちにとって、国会うんぬんよりも重要だったのは日々の生活であり、自分の家族の将来だった。彼らにとって「自由民権運動」とは、政治運動である以前に、ユートピアの約束だった。「自由党とかの結社に入れば、昔のお侍さんみたいに、一生生活に困らず楽しく暮らせる」——そんな解放の幻想が民衆に行き渡り、血気盛んな過激派の運動家たちも合流した結果、松方デフレによる不況を背景に起きた紛争が秩父事件であった。

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NATOの東方拡大が問題だと言ってる人がいて、それはそうかもしれないが、民主化し始めた国がNATOに入りたいと思うのはある意味当たり前で、このタイミングで軍隊を動かしてそんな政権をぶっ潰そうとするのは論外であり、いくらアメリカが嫌いだったり、NATOの蛮行とやらに嫌気がさしていると言ったって、既存の国際秩序を無視して戦争を始めたロシアは最低最悪であることに間違いはない。

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有泉『星亨』を借りようと思って図書館に行ったらちょうど閉まる時間だった。悔しいので古本屋をぶらぶらして、コーヒー飲む。スミス&メスキータ『独裁者のためのハンドブック』飛ばし読みしたらいまいちよく分からなくなった。稲葉『社会倫理学講義』自分としては『政治の理論』の続編として読んでいる。

日曜討論見る。テレビのニュースを見るたびに思うが、知識を伝達するにあたって、いわゆる「わかりやすさ」と「単位時間あたりの情報量」の面でこれを超えるコンテンツは今後出てこないと思う。「複雑さ」や「正確さ」は本であり、インターネットのコンテンツは正直言ってこれらに遠く及ばない。

ネットをはじめとするニューメディアが新聞・雑誌・テレビを代表とするオールドメディアを打ち倒すという夢は何度も語られてきたが、ネットで視聴される情報の大半はオールドメディア発の情報であるし(まとめサイトの冒頭に出てくるソースを見よ)、インターネットに基盤を置いたメディアで国際的に情報網を張って速報だせるような巨大組織は日本にはいまだに存在していない。戦争報道などを見るにつけ、結局はオールドメディアに頼るほかないことがよく分かる。